スタッフの商品日記 042 宮島工芸製作所の杓子

宮島特産のしゃもじ
広島県は廿日市市、厳島神社で有名な宮島のお土産といえば、「宮島杓子」。その由来は寛政年間(1789~1801)までさかのぼります。宮島のお寺にいた修行僧の誓真(せいしん)さんが、主たる産業がなかった宮島のために、弁財天が手に持っている楽器「琵琶」の形から着想し、神木を使って杓子を作ることを島民に教えたのがはじまり-と伝わっています。

ちなみに、ご飯をよそうだけでなく汁物もすくいとる用途の道具を杓子(しゃくし)、主にご飯をすくったり混ぜるのに用いる道具を杓文字(しゃもじ)といいますが、宮島で杓子といえば、しゃもじのことを指します。

つづく産業
宮島工芸製作所の創業は明治時代中期、1890年頃です。創業当時から杓子を作っていたわけではなく、当初は木のかたまりをノミやカンナで削り出して形をつくる、刳り物(くりもの)という木工技法で角盆を製造していました。木で調理具を作り始めたのは昭和初期になってから、西洋文化の普及によってフライパンや洋鍋での調理が一般的になってきた頃です。西洋料理で需要があった木べらをはじめ、ご飯を盛るための杓子も製造するようになりました。

もともと宮島で作られていた杓子は、持ち手が長い「誓真杓子」、又の名を「ビワ型杓子」と呼ばれるもので、ご飯をすくう面が大きく、持ち手がまっすぐの形状でした。昔ながらのかまどからご飯をすくうには良くても、家庭用炊飯器で炊いたご飯を取り分けるには小回りが効きません。宮島工芸製作所では、現代のくらしに合った使い勝手を追求し、元の誓真杓子を参考にしつつも、面の大きさや持ち手の形状、全体のバランスをみながら今の形状にたどり着きました。それが、1990年頃から「新型杓子」として製造し始めた杓子です。その形状も、現在に至るまで少しずつ改良してきたそうです。

杓子の製造は、仕入れた丸太を板状にカットし、乾燥させるところからはじまります。板が乾燥したら製品の型をかき、加工しやすいように製材していきます。

帯状鋸で荒切りをほどこしたら、自作の専用型を用いて、形を整えていきます。この段階で、大体の形ができあがります。この工程で使用するオリジナルの治具はしっかりしたものを作り、より良いものを作れるように常に調整を繰り返しています。

4-5段階の研磨工程で仕上げていき、最後に検品、修正を経て完成となります。

板をカットするなどの製造工程では、どうしても端材が出ます。それらの端材は地元地域で農業をされている方などに引き取っていただき、土作りに活用されているそうです。

つづく暮らし
安価な外国産のしゃもじと比べると割高になりますが、多くの人にどんどん使ってもらえるようにと、できるだけ購入しやすい価格で販売してきた宮島工芸製作所。たとえ消耗品であっても、長い間使ってもらうことを考え、材料は丈夫な樹種を選んでいるそうです。

使用するのは「ヤマザクラ」を筆頭に、地元地域で産出される良質の木材がメイン。D&DEPARTMENTの各店、およびネットショップで取り扱いしている杓子の樹種は「水目桜(ミズメザクラ)」と「桑(クワ)」の2種類。共に、日本産の材としては堅い方で、これらの大きな違いは色味と木目です。水目桜(写真右)の方が木目がきめ細かく、経年変化が少ないのに対し、桑(写真左)は木目が大きめで、経年によって暗い茶色に変化していきます。

お手入れ方法
丈夫な商品作りが宮島工芸製作所のモットーですが、杓子は木製品です。急激な乾燥には弱く、割れや変形の原因となるため、食洗機は使えません。また、水を吸う性質があるのでカビに注意。洗って水気を拭き取った後すぐにしまうのではなく、しっかりと自然乾燥させてから収納することが、長持ちさせるポイントです。

材質や材料の部位によっては、毛羽立ちが生じる場合がありますが、使っている間に徐々に落ち着いてきます。気になる場合は、杓子を水に濡らしながら#200程度の耐水ペーパー(水に濡れても破れない紙やすり)で研磨した後、より目が細かい#400程度の耐水ペーパーで研磨します。1~2回ほど研磨することで、毛羽立ちを取り除くことができます。使用しているうちに「ささくれ」ができたり、摩耗により先端部がつぶれてきた場合も、同様の方法でお手入れができます。(耐水ペーパーは主にホームセンターや、百円ショップの工作用品コーナーなどで購入できます。)

お気に入りのポイント
見た目だけではわからなかったのですが、はじめて手に持った時、手馴染みの良さに驚きました。ご飯をすくう面の大きさやカーブ、持ち手の太さ、長さ、カーブがなんとも絶妙です。材質は思いのほか堅さがあって、ご飯をすくう時、酢飯を切るように混ぜたい時、気持ちよく扱えます。また、持ち手が長いので、ご飯を混ぜる際に手がご飯に触れにくい点も嬉しいです。

吸水性に優れており、水を含ませてから使うと、ご飯粒がくっつきにくくなります。水を張ったボウルなどにしばらく浸けておき、使うたびにまた戻して給水します。(長時間つけっぱなしで放置することは避けた方が良いです。)

杓子をはじめ、宮島工芸製作所で製造されている現行商品のほとんどは、30~40年前から作られ続けてきた商品。いずれも長く続いてきた背景には、常に、製品形状や仕上げ方法などが現状のままで良いのかと検討・改良を重ねて追求されてきた、使い勝手の良さにあるのだと思います。

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