新年を彩る「螢松窯」の干支人形

鹿児島県の姶良市に工房を構え、「干支人形」の製作を行う、棈松孝弘さんをお訪ねしてきました。

棈松さんのつくる干支人形は、鹿児島の帖佐地区で伝えられてきた伝統工芸品「帖佐人形」を元につくられています。帖佐人形は、江戸時代の後半には人形製作が始まっていたことが確認されており、最盛期の大正年間には約40窯もあったそう。昭和の初めごろ帖佐人形は一度途絶え、昭和35年までは棈松さんのお爺様が製作を続けており、その後昭和40年、地元の有志によって帖佐人形保存会が結成され復活しました。保存会では当時使われていた型を集め、今も昔ながらの型と技法で製作を行なっています。帖佐人形の特徴は柔らかい素材感と色鮮やかな彩りです。

また、姶良で取れた土にはさらさらした火山灰が含まれていることもあり、細かく繊細な形をつくることが難しく、通常の焼物より多くの土を使うため、素朴で力強い印象になります。当時、大人になるまでに病気になる子供も多かった為、安産や出産祝い、子供の成長を願って送られ、今では一年間家を守ってくれる縁起物として親しまれています。

棈松さんは、鹿児島の工業高校のインテリア科を卒業、一度は県外に出られたものの、鹿児島で4年程仏具の設計のお仕事を経験、都城の窯元で2年間修行の後独立し陶芸の道へ。元々家系が帖佐人形を製作していたことや、棈松さん自身が木工やクラフトが好きだったこともあり自然と気持ちが向いたと話して下さいました。

松さんは、県内各地から採取した土石や木灰を釉薬にして製作した日常の器や花器を主とした「螢松窯(けいしょうがま)」としての作家活動の傍ら、年に一度干支人形の製作を行っています。製作活動のスタートは、神社に納めていることもあり、初夏の頃には来年の干支に向けて構想を練りはじめるそうです。干支人形の作業の流れはまず原型となる型作りから。

これは毎年棈松さんのオリジナルデザインでつくられています。次に粘土を7㎜の板ではさんで切っていきます。

そして薄くなった粘土を一つずつ型にはめ込んでいきます。型に少しでも隙間があると焼き上がったときに隙間にヒビが入ってしまう為、この作業が一番難しいとの事。型入れが終わると焼いて胡粉をぬり絵付けをして完成です。

昔ながらの製法は、作業工程が多く手間がかかり、全て一人で行っている為、個数に限りがあります。そんなに大変なのになぜ作り続けているのか伺うと、つくり始めたときは干支一周するまでにしよう、と思っていたとの事しかしつくり始めると毎年買いに来てくれるリピーターさんができ「子供が生まれるから買いにきた」「今年は祖母の干支だから」と楽しみに待ってくれる人たちが増えやめられなくなったそうです。また干支の一周は12年ですが、棈松さんはお客さんに喜んで欲しいという気持ちから、面倒でも型を一新するのだそうです。来年は13年目、2周目に突入です。12年前に「丑」を買った方も、違った丑が飾れます。

現在、帖佐人形の作り手は地域でも少なく、干支人形の作家も全国にわずかだといいます。後継者はおらずこのまま途絶えてしまうかもしれないのが現状です。棈松さんは学校訪問をしてワークショップも開催しています。また、歴史民俗資料館の方たちが夏休みに子供たちに教えることで、子供たちにも郷土に長く続くものや、その歴史に興味をもって欲しいとおっしゃいます。棈松さんが干支人形製作で心がけていることは家々の雰囲気を壊さず、キャラクター化して可愛いものになりすぎないこと、あくまで「干支人形」のスタイルを崩さないことです。棈松さんの作る干支人形は素朴で親しみやすく、暖かみのある作品です。2015年日本民藝館展にも出展され、館長の深澤直人さんからも「昔からあるような良い雰囲気をもっている」と評されています。

d鹿児島店がセレクトした鹿児島の長く続くいいもの、「鹿児島セレクト」として取り扱い開始です。

令和三年の「丑」は3色。箱の判も毎年手作りです。新年を迎える前に早めに手に入れておいて元旦から飾り、一年間ぜひ可愛がってください。