82:  記名原稿

時々、新聞や雑誌などから原稿を依頼されます。僕は自分の名前を出す原稿は、基本、文字は一文字も直して欲しくないという生意気を通してよくもめます。もう時効ですが、日経デザイン誌の連載もそれで降りました。(そのあと、反省して編集長にお詫びして、めでたく書籍にまとまって出版されたわけですが・・・)

自分が名前を出して書く。自分にわざわざ依頼を頂いて書く。そこに多くの赤字を入れられると、いつも「僕はライターじゃないですから」と突っぱねます。なんと言われようと事実と違ったり、明らかに赤字を入れた編集者の理屈が正しかった時を除き、絶対に変えません。「では、他のライターに頼んではどうでしょう」と言ってしまいます。じゃないと、僕が名前を出して書く意味がわかりませんもの。

これは編集者の石黒謙吾さんから、僕が勝手な解釈かもしれませんが教えていただいたこと。「句読点なんて、幾つ打ってもいいから、自分らしく書きなさい」と、国語と作文が大嫌いだった僕に「作文の楽しさ」を教えてくれたのは石黒さんでした。「そうか、原稿書きにルールなんてないんだ」と、解釈して、その日から僕は何かあると自分の言葉で、表現を作って文章にしました。とても楽しいことですが、責任も発生することも経験から学びました。

僕は記憶力も頭も悪いですが「自分の表現」を探す自由を石黒さんから教わりました。だから「d design travel」なんてトラベル誌や、本も出すことができたんだと感謝しています。これからもなんだか分からないかもしれませんが、僕は気持ちや考えを文字にし続けたいと思っています。