滋賀をたべる会 in d食堂京都 開催レポート

2020年の中秋の名月は、10月1日。この日に、京都店のある本山佛光寺の食堂で、蝋燭の火を灯しながら満月の下でお食事をいただく会を開催しました。

滋賀県高島市にある「大與(だいよ)」は、1914年創業の滋賀県高島市にある和蝋燭専門店です。今回、京都店のショップで展示をさせてもらうに当たって、四代目当主の大西さんから和蝋燭に対しての想いをお伺いしたところ、「蝋燭をもっと日常の中で身近に感じてほしい」というお気持ちを、とても強く感じました。和蝋燭と言えば、手作業で何度も蝋を重ねていくなど、その作られ方とそれによって作り出される良さを最も伝えるべきかと思っていた私にはあまりに意外で、同時に大西さんのその想いに心を動かされました。

確かに、電気などなかった時代は、火から明かりをとっていただろうに、現代の私たちの日常には電気という存在が当たり前すぎて、蝋燭や火を使う機会が限りなく少なくなっています。

今回のたべる会では、受付時に蝋燭を1本手渡され、着席してから蝋燭の火を点灯。その蝋燭がついている間にお食事をいただきました。植物性の原料から作られる和蝋燭は、炎が大きく消えにくく、臭いもほとんどないため、食事の際の明かりにも適しています。

そして、その和蝋燭と共に滋賀を存分に堪能していただくため、同じく滋賀県高島市で活動をされている、鮒鮨専門店「魚治」の左嵜 謙佑さんと、農薬・化学肥料不使用の米や農作物を育てる「針江のんきーふぁーむ」の石津 大輔さんにお越しいただきました。

琵琶湖がある滋賀県では、湖に棲む魚「湖魚(こぎょ)」を用いた独自の食文化があり、鮒(ふな)をお米に漬け込んで長期発酵させる「鮒鮨」は、滋賀の伝統食として根付いています。その鮒鮨を昔と変わらない作り方と味でつくり、さらに時代に合わせた食べ方を提案されている左嵜さんに、滋賀の食材を用いて、お月見にちなんだお料理を作っていただきました。

コース料理は、全部で6品。そのお料理の全てに、9月に収穫されたばかりの石津さんの新米が使われていました。

【献立】
・「えび粥」
少し肌寒くなって来たので、最初は体を少し温めてもらうための一品。石津さんのもち米の上に、炒った銀杏、琵琶湖でこの時期に獲れる海老を使った餡を掛けたお粥。

・「鮒寿し餅、小吸物」
石津さんのお米で作る餅を少し炙り、その上に左嵜さんの鮒寿しを乗せて。

今回は、鮒寿しの酸味にあう滋賀県と奈良県の日本酒、京都の微発泡ワイン、京都のクラフトビールなど、お料理に合わせたドリンクも各種ご用意しました。次々と出てくるお料理に舌鼓を打ちながら、みなさまお酒も進んでいきます。

3品目は、石津さんの藁で琵琶ますを藁焼きして、たたきにする一品。今回、佛光寺さんの大変なご理解をいただき、縁側でも火を使わせていただけることになりました。石津さんは無農薬でお米を作られているので、藁を燃やしても農薬がでる心配もありません。大きく燃え上がる炎はとても美しく、まるで命ある生き物のようにも見えました。

その傍らでは、石津さんが縁側の囲炉裏で薪をくべて火を起こし、新米を炊いてくださいました。

今回は、全ての火をひとつの種火から分けて使いました。昔、マッチやライターなどもなかった時代は、簡単に火を点けることができなかったので、常に火種を絶やさずにつけておき、そこから火をもらって点けていたこともあったようです。
途中、止むを得ず蝋燭が消えてしまったテーブルが、お隣の蝋燭から火を分けてもらい点灯する光景を見ていて、昔の人たちの生活に思いを馳せました。

その間、店内では、蝋燭と外の火の揺らぎを眺めながら大西さんに蝋燭についてのお話をお伺いしました。

お料理は、まだまだ続きます。

・「琵琶ますたたき、もって菊和え物」
旧暦で重陽の節句は、10月の中旬。この時期は菊が美しく咲き、菊のお料理やお酒をいただいて、1年の無病息災や長寿を願う風習があります。菊和え物には、琵琶湖で獲れる池蝶貝の貝殻で作ったお皿を満月に見立てて使われました。設えなどの細部にまで左嵜さんの計らいや想いが感じられ、お客様からは感嘆の声が聞こえてきました。

・「里芋煮物」
中秋の名月の別名は、「芋名月」。中秋の名月に備えるお団子やススキと共に、この時期旬を迎える里芋を供え、豊作を願う風習があったそうです。里芋は、左嵜さんの地元、マキノ町で獲れたものを使いました。

さて、いよいよご飯が炊き上がりました。蓋がしまっていても、すでに美味しさが伝わってきました。

蓋を開けた瞬間に、「わぁ~!」という歓声が一気に上がりました。艶のあるお米と、芳しい香り、しゃもじでかき混ぜると、うっすら色付いたお焦げもでききました。

この新米をたくさん食べてもらいたいという左嵜さんの想いから、琵琶ますから獲れたいくら、香物(「ごり山椒」という琵琶湖で獲れる湖魚を使った佃煮、梅干し)、お味噌汁という、白米の美味しさを引き立たせてくれるおかずがご用意されました。

おかわりもたくさんしていただけるように、なんと2升ものお米を炊いてくださったのですが、次々とおかわりに並んでいただき、ほぼ完食していただけました。

最後のデザートは、高島で獲れたいちじくで作るコンポートと、栗きんとん。
皆さんで外にでて満月を眺めながらいただきました。お盆の上には、左嵜さんが大根で作られたぼんぼりを乗せて、その中に蝋燭を灯しました。

この日はお天気にも恵まれ、満月のお月様を皆さまと一緒に見ることができました。

これにて全てのお料理が出揃い、お月様を眺めながら緩やかに会は終了しました。

「めぐる季節を感じられる、煌びやかではない、寄り添うそうな設えと料理を提供したい」という、左嵜さんの想いのもと作られた、今回のお料理の数々と和蝋燭の明かり。昔から人々が大切にしてきた文化や風習を感じながら、旬の食材いただくという時間は、人間にとって必要な豊かな営みで、心と身体の底から元気になるということを感じました。

今回の会をきっかけに、日常の中で蝋燭や火をより身近に取り入れ、慌ただしい日々の中でも少し立ち止まって、季節や自然を感じる瞬間を大切にしていきたいと、私たち京都店のスタッフも思いました。そして、この会を実施するに当たっての佛光寺さんのご理解に心より感謝し、改めてお寺というこの場所で、私たちが日々活動できていることにもまた、感謝の念を抱きました。