スタッフの商品日記 023 打ち出し片手中華鍋

万能選手の中華鍋
中華鍋はプロ専用で炒めもの用、というイメージがありました。料理人が重そうな鍋を業務用コンロの上で力強く振ると、あっという間にチャーハンの出来上がり…というシーンをテレビで観て、それが頭に残っていたからだと思います。そもそも我が家の台所は収納スペースが限られているし、本格中華を作る機会も無さそうなので、炒めもの用にわざわざ鉄の中華鍋を買うことはないと思っていました。

ところが、中華鍋とは中華料理に限らず幅広い料理に使うことができ、炒め以外にも、焼く、揚げる、蒸す、煮るなど様々な調理方法に適した万能鍋だという話を聞いて、俄然中華鍋に興味を持ちました。そして手に取ったのが、山田工業所の「打ち出し片手中華鍋」です。

つづく産業
終戦後の1950年代は、食糧はあっても物が不足しており鍋も無い、という時代だったそうです。そのような中、鉄板は手に入らなくてもドラム缶ならば入手できたため、ドラム缶の底板をハンマーで叩いて鍋を作り始めたのが先代の社長です。それからしばらくして、昭和32年(1957年)に山田工業所を創業されました。当初は手だけで叩いて製造していたため一日に作れる数が限られましたが、その後自社で専用の機械を開発されてからは、グンと生産量が上がりました。

機械を使うとはいえ、機械の調整をおこなっては操作し、ハンマーが当たる位置を見極めて「打ち出し」をおこなうのは職人さんの熟練の技、手仕事です。そしてその日の気温、機械の調子、材料となる鉄板シートのどの部分を使用するかなど、様々な要因が重なってくるので、見た目は同じように見えても一枚ごとに微妙に形が違い、ひとつとして同じ鍋は作れないと言います。

「打ち出し」とは、鉄を叩くことで強度を高める鍛造(たんぞう)という金属加工に分類されます。鍛造と聞いて、真っ赤に熱されて軟らかくなった鉄を叩いている場面を想像しましたが、山田工業所の製法は冷間鍛造(れいかんたんぞう)といって、常温で硬いままの材料を叩いて、平らな一枚の鉄板を鍋の形へと成形していくそうです。

山田工業所は、このような打ち出し製法で鍋をつくっている日本で唯一のメーカーです。鍋を作るならば、プレス製法の方が短時間で大量に作れて量産向きです。しかしプレス製法では使用する鉄板が大きく、その分できあがる鍋も重量があります。一方、打ち出し製法では小さい鉄板を叩いて伸ばしていくので、できあがり寸法が同じでも、プレス製法の鍋と比べて軽いのです。長時間使っても疲れにくいというのは、プロにとってだけでなく一般家庭においてもありがたいポイントです。

ひとつひとつ手作りなので、規格の範囲内で細かな要望に応じることができるというメリットもあります。D&DEPARTMENTで現在販売している種類以外にも、山田工業所では形状やサイズが異なる鍋をたくさん製造されています。種類が多ければその分大変そうですが、「頼まれると作ってしまう」そうで、その結果が現在のバリエーションになっているとのこと。料理人から頼りにされているメーカーさんなのです。

中華鍋の製造工程は打ち出しだけではありません。前後に諸工程があり、それぞれの担当者がいます。まずは材料となる鉄板を加工に適したサイズにカットし、型抜きをおこないます。

打ち出しの工程では、深さや形が決まってきます。そして、へりをたち上げ、へりの表面をならし、次に鍋底をならし、丸みをつけます。

取っ手にトレードマークの山印を刻印し、フックに掛ける時などに便利な穴を開けます。

取っ手を丸め、取っ手と鍋本体の間を溶接して補強。

バリを取って洗浄したら、最後に錆止めのニスを塗って完成です。

つづく仲間
現在山田工業所で作業されている方は12名。片手中華鍋だけでなく両手鍋やフライパンも合わせると、月に4,000~6,000枚の鍋を製造されていると聞いていたので、想像以上に少ない人数でこなされていることに驚きました。ちなみに、このうち「打ち出し」の機械を扱える職人さんは現在3名だけです。

山田工業所が工場を構えているのは、横浜市金沢区の工業団地。1980年代に移転してきました。ここでは周囲がすべて何かしらの工場です。山田工業所には無い設備や技術を持っている工場があり、そうした近隣工場に協力してもらって開発、製造できた製品もあるそうです。

つづく暮らし
使用頻度が高いプロの世界では鍋も消耗品に近いようですが、家庭で使用する分には、鉄鍋は長く使い続けていくことができます。鉄製品はお手入れが面倒な印象があったのですが、やってみたところ、思ったほどの手間ではありませんでした。

購入後初めて使用する時だけは、まず表面の錆止めニスを自分で焼き切る必要があります。空の鍋を火にかけて、色が変わるまで加熱すればニスが揮発します。更に野菜くずを入れて炒めることで、鍋を慣らします。
調理で使用した後は料理を入れたままにせず、なるべくすぐに鍋から出します。そして鍋はお湯で洗います。まだ鍋の熱が残っているうちに棕櫚のタワシやスチールタワシでこすれば、洗剤を使わなくても、こびりついているものを落とせます。こびりつきを放置すると、そこから腐食が起きるなど鍋がいたむ原因になりますので、ここは気合いを入れてしっかり落とします。

洗い終わったら強火にかけ、水分を十分に飛ばします。最後に薄く油をなじませることで、油の膜が錆びを防いでくれます。万が一錆びが出てしまっても、サンドペーパーやスチールタワシなどでこすって磨けば落とすことができます。

お気に入りのポイント
この打ち出し片手中華鍋の板厚は1.2mm、重すぎなくて鉄鍋初心者の私でも使いやすいと感じました。熱伝導率がよいので、短時間でもしっかり火が通って、炒めものがシャキッと美味しく仕上がります。

我が家で使用しているのは大きい方の27cmタイプ。具材がかさ張る料理を作る時、前から使っていたフライパンでは鍋から溢れ出そうになり、ソロソロとかき混ぜていたのですが、この中華鍋だと同じ直径でも深さがあるため、溢れる心配無くササッとかき混ぜられ、キャベツたっぷりの回鍋肉も作れます。

そしてこれは使ってみるまで分からなかったのですが、丸底形状による使いやすさが思いのほか嬉しい。具材をかき混ぜた時に鍋の中でスムーズに回ってくれますし、炒り卵なども上手に仕上がります。また、少量の油で揚げ物ができる点も気に入っています。

自分には縁が無いと思い込んでいた中華鍋ですが、今ではすっかり愛用しています。しかも一生物といえる鍋なので、大切に育てていきたいと思っています。

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