72: 誰がやりたかったのか

会社に所属するってことは、その会社の根っこにつながっていた方が充実します。なんでも一緒かもしれません。街づくりやお祭りのメンバーになった時なども。何かに所属する時に意識したいこと。根っこにつながっているかどうか。

例えば、あなたがケンタッキーフライドチキンで働くことになったとしましょう。店舗配属で何かを作るとしましょう。「心を込めて作りましょう」と指導されたとしましょう。どうすると「心を込める」ことができますか。どうすることを「心がこもっている」と考えますか? もちろん、あなた個人の人生経験から、いろいろな方法があると思います。いわゆる「心を込める」的なことはできるのです。問題は「ケンタッキーフライドチキンの一員」としての「心の込め方」です。

アップルストアに行くと、なんだか異様な雰囲気に包まれます。一人一人の様子が他の店とはなんだか違う。その答えはきっと「創業者であるスティーブ・ジョブスとつながっている」からだと僕は思います。スティーブ・ジョブスと「根っこが繋がっている」。だから、仮に「心を込めてね」と、アップルストア配属になったあなたが上司から言われたそれは、ケンタッキーフライドチキンのそれとは違ったものであるはずです。もちろん、両社にいても「世間一般的な心の込め方」は存在します。そして、そんな人がスタッフとしてアップルストアにいたら「なんか、違うなぁ」と思うでしょう。

いい会社には「創業者が何をやりたかったのか」の共有があると思います。全スタッフが創業者が思っていたことと「根っこ」で繋がっている。すると「心を込めたい」と接客や取引先とのやりとりで思った時、「その会社らしい”心の込め方」が出来る。

会社によって「何がいいことなのか」は違います。それは「創業者」の中に答えがある。違う会社なら優先しないことをこの会社では優先したりする。前の会社では褒められなかったことを、今の会社は褒めてくれる。その価値基準という根っこに興味(つまり繋がっている)が持てなければ、「その会社らしい成長」には参加しても面白くないと感じるかもしれません。

dには僕が考えた「d photo」という写真の撮り方が最近あります。何をして「d photo」なのかは、なかなか伝えづらいのと、どうしてそんなことをしなくてはならないのか、ならなかったのかに興味を持ってもらえないと、dというブランドを作っていけない。dらしく経営できることで、他のブランドとお客さんは差別化、特別なものと認識してくれる。それによって「あの店で買うよりも、同じものならdで買った方が面白い」となる。それをみんなで日々作っていくのがブランド作りなわけで、「そのブランドらしい」こととは、創業時に集中して存在している。そこが切り離された接客やサービスは、本当に無味乾燥したそこらへんに落ちているような当たり障りのないものでしょう。

ショップに限らず、会社の業務の大半は、どこの店や会社にも雑務と呼んでもいいことばかりでしょう。単純な作業や右から左に渡すだけのこともたくさんあります。しかし、その雑務にさえ「個性」や「らしさ」を色付けすることができる。ブランドはそうやって日々、全員で作って積み上げていった様子。だからこそ大切なのです。「いらっしゃいませ」と言う言い方はもちろん、「どうして言わなくてはならないのか」と考えていく時、「創業者はどうしていらっしゃいませと、言おうと考えたのか」に、その店の「いらっしゃいませ」があると思うのです。

dでは「ありがとうございました」とお客さんを送ることはしませんし、お客さんを「お客様」とは呼びません。その答えは創業者である僕の中にあります。そして、それが「dらしさ」の一つだと思っています。
最後に誤解のないようにですが、「創業者が一番」「創業者は偉い」と言っているのではありません。「創業した理由」「創業した想い」を誰よりも持っているということです。どんな会社にも創業者はいます。どんな会社にも「創業した想い」はあります。そこで働くすべての人は、その上に日々、立っています。そこにお客さんや取引先担当者はやってくるのです。