書籍『ふつう』布カバーの話

『ふつう』の表紙には、深澤直人さんが20年以上掘り下げてこられた、「いいふつう」を体現できるようなブックデザインを目指し、表紙は「素」の良さが感じられるよう、布は裁ち落としで、使う生地も、書籍用の既存の布素材ではなく、広くファッションの素材から探しました。

〈紙と紙〉、〈布と布〉を接着する技術は一般的ですが、〈紙と布〉という異なる素材どうしの接着は、かなりの技術が必要。今回は、繊維業界・製紙業界の両方に精通する松尾産業株式会社の井上真臣さんにお力添えいただき、完成させました。

衰退していく日本の繊維産業、製紙産業を目の当たりにしながらも、双方の素晴らしい技術を未来に繋いでいきたいと感じていた井上さん。その矢先にdから相談があり、かなりチャレンジングな試みだったけれども、「やってみよう!」と奮起してくださいました。

淡い水色の布地は、平織りの綿布。平織りとは、経糸と緯糸が一本ずつ交互に織られる、ごく一般的な織り方で、まさに書籍『ふつう』に相応しいもの。

ぜひ、表紙素材の「素」のよさ、手触り、経年変化をお楽しみください。

 

【発行人・ナガオカケンメイより】
書籍タイトルが「ふつう」と決定した時から構想していた布張りの装丁の束見本を見ていただくと、多くを語らず「いいね」と。とにかく信頼をいただき、僕らがしたいようにしていい、という雰囲気は随時あり、このアイデアは確認のメールの段階から、OKをいただいていました。問題はこちらが考えた表紙を布で張り、その小口を折り返さないで断ち落としたように仕上げるというこだわりが、実はとても難しく、書籍製本のほとんどは、それが出来ないのと、美しく仕上がらないために、厚紙の表紙を布でくるむようにして、仕上げます。

どうにかそれができたのは、京都の表具屋さんとの偶然のつながり。書籍の装丁のことばかり考えていたので、まさか掛け軸の技術が応用できるなどとは想像もしていなかったのです。そのアイデアもとても気に入っていただきました。

話を少し戻しますが、タイトルが「ふつう」と決まった瞬間から、今回採用した布張りの装丁が頭に浮かび、これ以外は考えませんでした。もちろん、「ふつうの本」「ふつうの装丁」など、書籍としての「ふつう」さも考えていくのですが、それ以上に完成した本が多くの人の手に届き、表紙をめくる時の様子、手の上で指が感じる質感を考えていくと、どうしても布でありたいと思いました。

紙ももちろん耐久性など、ロングライフな素材ですが、それ以上に年月を過ごしてほしいというイメージから、服やカーテン、ラグやエプロンのような、日常をずっと長く一緒に暮らすふつうな素材としての布を選びました。やがて日に焼けたりして、背表紙が変色したりしていくその様子をまとった「ふつう」という言葉とその本。この先のいかなる時代にあっても、変わることのないテーマを記したものとして、ずっと存在してほしい願いを込めています。

書籍『ふつう』 「発刊によせて」より抜粋

 

【ブックデザインを担当したD&DESIGNの制作風景】


左:束見本。タイトルを箔押しする前の状態。井上さんによると、一番難しかったのは、紙と布の貼り合わせ作業。表側のみに布素材を使った製本はよくありますが、表紙素材の両面が布という両面貼りは難易度があがります。片面を上手く貼れても、もう片面にシワや浮きが出てしまうと、使いものになりません。熟練の技術を持ってしても難しい作業でしたが、綺麗に貼り合わせていただきました。

右:カバーを決めるミーティング風景。真ん中が松尾産業の井上さん。「こんなのは出来ますか? あんなのは?」とアイデアを出しながら、生地見本を見ながら決めていきます。この時、井上さんは「両面貼りかあ...難しいな...」と頭を悩ませていたそうです。笑

 

左:タイトルの箔押し、圧のかけ方を何パターンも試作。
右:さまざまな生地サンプルから、今回の装丁に相応しいものを決めていきました。

 


 

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