15 手間がかかる

昔、すべての商品に「Distributed by D&DEPARTMENT PROJECT」という小さいシールを貼って販売していました。2000年開業の頃の話です。最初、すべての商品に「D&DEPARTMENT PROJECT」のシールを貼っていました。僕らがしっかり選んだ証、私たちから買ったんだという証のつもりでした。それくらいD&DEPARTMENTで買う、売るということは、他の店とは絶対に違うんだ、という意識でいましたので、その気持ちをシールに込めようということで、そう考え実行していました。

ある時、顧問弁護士から「それをすると、製造メーカーと誤認される」と意見を受け、しかし、基本的な意識は変わらないし、伝えたいので、「私たちが選びました!!」という意味で最終的「Distributed by D&DEPARTMENT PROJECT」になりました。

忙しい合間にそのシール貼りは行われ続けました。作業としては大変な手間ですが、「一つ一つ、私たちが選んだんだ」という意識を込めるには重要な「儀式」のような作業でした。それから何年も経ち、僕も店頭の現場を離れたある日、このシールが貼られていないことに気づきました。理由を聞くと「ショップスタッフから手間がかかると反対意見が出て、やめることにした」と。正直、愕然としました。もちろん、このシールに込められた気持ちをしっかり継承できていたかというと、そうではないかもしれません。とても悲しくなりました。

創業当時を知っているお客さんは、あえて、このシールを貼ったまま、使い続けている商品のことをたまに教えてくれます。このシールはそういう創業当初の私たちの意識そのものだったからです。それにコミットするかのように、買い物をしてくれて、それをそのまま使ってくれている。嬉しい話です。

 

スタッフ一人一人の事情と向き合わないとうまく会社や店が経営できない時代。一人一人のそうした意見をくみ取っていくと、そんなシールもやがてなくなります。早く帰りたい。面倒なことはなるべくしたくない…。もちろん、僕も一人の従業員の立場で考えるとわかりますし、真っ当な話です。ただ、それを会社やブランドが取り込んでいけばいくほど、ブランドの個性は無くなっていきます。「どこか、無理をしてやっている手間のかかること」が、実はブランドのスパイスであり、他のブランドとの差別化になり、結果、お客さんはそこのブランドの「意識」をかぎつけ、買い物したり利用してくれます。そして、お金を使っていただき、そこで働くすべての人の給与や保険として使われる。極論を言うと、一人一人の働く人のそうした「ブランド作りへの意識」が、結果としての会社の収益につながる。そこを怠っていくと、他社にお客さんが奪われ、会社の収益も下がっていく。

家に帰ると、そんなシールが貼ってある当時の商品に出会います。そして、ちょっぴり複雑な気持ちになります。

 

昨今、コンプライアンスという名で、企業やブランドの冒険心が平らにならされています。働いてくれる人たちのことを悪く言うつもりは毛頭ないばかりか、そうした人たちがいるからこそ、企業の経営は継続されていきます。ただ、自分の会社のことが「面白い会社だな」と思っているとしたら、ぜひ、その会社やブランドが働くみんなと一緒にやっている「いっけん手間な個性作り」も応援して自分の職場の活気作りに加わってほしいな、とも思います。