61: あの店で買う価値

dの中でよく使う「根付く」という言葉。一つの商品を選ぶ際は、例えばそれが焼物なら、その作家がしっかり産地に根付いているか、というような話でよく出てきます。仮にその作家の商品がヒットしていても、その作家に産地への思いがなければ、ただ、その作家だけが儲かり潤うだけになる。実際、そういう作家は本当に増えている。土も釉薬も国内外からネットで取り寄せ、マンションの一室で電気釜で焼く、みたいな人はいる。もちろんアーティストとしてはいいのでしょうし、そういう人の活動は否定できないし、するつもりもないです。ただ、dとしては違います。僕にはやはり「産地の発展」にも気を持たないといけない。というか、面白くない。その土地に行くと、そういう作家による繋がりや動きで、その土地に活気を感じ、そこに人が集まり、豊かな表現として昔から続いていることが、ますます未来につづき、その地域に生命力を与える。そういう人のものづくりを応援したい。そういう人の作ったものを、そのものの「まわり」を含めて知りたい。知ってほしい。旅して欲しい・・・・・・。

そう考えていたある日、「dという自分たちの店」は、ちゃんと何か「社会的なこと」に根付いているか、と、思いました。もちろんそのつもりではいたのですが、何か、明確に言えるのかなぁと考えたわけです。政治家が選挙で語る「マニフェスト」のようなものです。「あの店で買った方が安い」という時代は終わりはしない代わりに、社会的な問題、環境のことなどと紐づいてブランディングを行なっている企業があるように、「あの店でどうせなら、買いたい」と思える何かをしっかり持っているかどうか。安い、高いという「値段」から、新鮮さや生産者の顔が見えるなどの「安心」に関心が移っている今、これからはもっともっと例えば、自然由来のエネルギーを電力などに使っているとか。そこで買うと、エネルギーの未来にとって、あるべき方向に進む可能性に投じれる、とか。

なんだかかっこいいものづくりの思想や、昔の茶人の美学などを引っ張り出すなどして、ブランドはイメージで訴求して、店内では具体的な使い勝手や価格で財布を開かせていたが、すでに社会や環境に良ければ、多少高くても、不便でも、そして、自分で袋詰めするなどの本来は店舗スタッフがやるようなことさえ、協力参加したいと思う生活者はどんどん増えていく。「社会をよりよく変えていく」何か具体的なアクションを壁に掲げない店で買っても、それはものが手に入っただけです。

dの入り口には「ロングライフデザイン」についての考えが買いてあります。しかし、これからはもう一歩、踏み込んで「・・・に対して・・・・します」という宣言のようなものも、必要だなぁと思います。ぼんやりとしたロングライフデザイン論から、具体的に未来を変えていくアクションの一つ一つを、今、書き出しています。