「手捺染」工場見学レポート

d47MUSEUMで3月2日まで開催していた「着る47」展の神奈川県の出展者、「AMONG」の中村寛子さんと手捺染製法の染物を手がけているセージの工場を訪問しました。

横浜の地場産業である手捺染製法で染め上げた布を用いてスカーフやバッグを企画・デザインされているAMONG。旅先や日々の暮らしの中でインスパイヤを受けた自然界の営みをテキスタイルデザインに取り入れ、一つ一つに込められたネーミングやメッセージはそっと元気を与えてくれるようなものとなっております。オリジナルカラーですべてデザインし、色によってコンセプトが異なるAMONGの商品は、オリジナリティに満ち溢れています。

【桃栗三年柿八年】 カラー:順調  メッセージ:時間を味方につけて、じっくりゆっくり進んでいこう。余分な力を抜いて安心感に包まれよう。

福浦という横浜の工業団地に佇むセージの工場。横浜の手捺染産業が発展したのは、1859年の横浜港開港によって日本全国から染物が集まり、外国への輸出の玄関口となったことからでした。その為、横浜は生糸の集散地となり、水質資源に恵まれていたおかげで帷子川や大岡川沿いでは、染物の水洗事業が盛んとなったとされています。その中でセージも、大岡川沿いで染物を洗う会社として始まり、平成元年には、現在の工業団地、横浜の福浦に移転したそうです。

 

手捺染の特徴としては、様々な型を用いて色を重ねることで、デジタルプリントでは出せない繊細な表情が垣間見えるところ。全く同じ様に調合した染料でも、生地繊維や気象環境によって、同じ色を出すことが難しいため、染色技術者や捺染職人の技による調整が必要不可欠になります。手捺染は、職人の方々など、「ひと」が主体となって出来ることであり、オートメーションでは置き換えることが出来ないものになっています。

 

 

<繊細な型づくり>
手捺染製法で染める前に、最初にデザインの型づくりに取り掛かります。セージでは、AMONGのようなデザイナーから注文を受け、デザインにあった型を専門業者に発注。一色に対して一つの型が使用されます。その為、1つのデザインが出来るまでにいくつもの型を用いて染め上げなければなりません。

 

<奥の深い染料調合>
手捺染工程に入る前に色をつくります。いくつもの粉体塗料を掛け合わせ、注文された色をつくり出します。色を出すために粉体染料は、0.001g単位まで測り調合するそうです。粉体染料の比率はデータに残っているものもあるそうですが、光や生地によって色の出方などが変わるため、デザイナーと染色技術者は念密にやりとりをし、そして人の目で判断して初めて思い通りの色に染めることができます。また、生地への負担を軽減するためにアルカリ度を抑えながら、粉体染料を配合します。優れたセンスと経験を持った染色技術者が工夫を凝らしてつくり出す「生きた色」は無限にあり、とても奥が深いと感じました。

 

 

<職人さんによる手捺染>
ここで初めて手捺染の工程に入ります。職人の手でより綺麗に染色するため、スケージ(刷毛)に均等に力がかかるように傾斜している捺染台に生地を固定していきます。捺染台は半ロット分の23mもの長さがあり、均一にプリントするために捺染台と同じ長さの生地を2人がかりで張っていきます。生地を張り終えたら、型を生地上に設置し、スケージを用いて染料技術者のつくり上げた色で染色していきます。ハンカチやスカーフなどサイズによって、職人の方々は捺染台一面に固定された生地に型を固定しては外し、繰り返し捺染作業を行います。一つの型を使用し終えたら型に負荷がかからないよう、自動洗浄機で洗浄し、乾燥棚で乾かして繰り返し使用していきます。

チームで息を合わせながら、「生きた色」を丁寧に染色されている光景を目の当たりにして、職人の方々による手捺染が人々を魅了させている理由を知ることができました。

<蒸し>
実は、蒸す前の染色された状態はただ色を生地に乗せているだけに過ぎず、蒸し工程なしで染物はできないそうです。しっかり蒸すことによってプリントを生地に定着させます。セージでは反物の長さによってバッチ式と連続式の蒸し機を使い分けています。機械で温度管理されているため、生地によって蒸し器の温度を調整し、微妙な調整が可能となります。蒸し工程は機械で行いますが、職人の目で最後にクオリティを確認します。

バッチ式

連続式

 

<神奈川の水で洗う>
次に、洗う工程に入ります。染めの工程では染料を多く使用しているため、ここの工程はとても重要です。生地に付着した余分な染料を洗い流すのと同時に、染料以外の不純物も洗い流します。また、水洗後、色落ちの防止、風合いや光沢の調整を行います。
ウインス式

連続式

 

<乾燥>
続いて、乾燥工程に入ります。この乾燥工程を経ることでぐっと風合いが増します。セージでは蒸し器同様にバッチ式と連続式の乾燥機を完備しており、両方備えていることによって効率的に乾燥作業ができています。生地によって乾燥温度を調整し、生地とプリントにとってベストな状態に仕上げていきます。

 

 

<テンター整理工程>
蒸し、水洗、乾燥で伸縮した生地を元のサイズに戻す「テンター整理工程」に入ります。この工程では加熱したあとに、縦糸と横糸にテンションをかけてシワやヨレを直していきます。セージでは、織物の強さに合わせてテンターマシン2台を完備しており、ポリエステルからシルクまでテンター整理が可能です。生地を伸ばした後は、注文により撥水加工や防縮加工などを行い、最後に仕上げを確認し、お客様の元へ届けます。
捺染完了。デザイナーさんのもとへ!

 

 

 

<現在の工場になるまでの道>
平成元年の福浦には捺染工場が立ち並び、多い時には20社ほどあったそうですが、今現在はセージ1社しかこのエリアには残っていません。福浦では飲料水を使用するため、水洗工場にとって水道代が莫大な金額となり、多くの工場は神奈川県外に移ったそうです。その中でも横浜に留まり横浜捺染の伝統を継承し続け、生き残ることのできた一番の理由は「設備」だそうです。先を見据えて莫大な設備投資をしたことで、染色から仕上げまで一貫して出来る工場になり、手捺染製法を守り続けることが出来たと福本さんはおしゃっていました。今回の工場見学を通して、地場産業を長年支えられる企業となるには、優秀な職人さんを育てること、スキルを最大限に活かすこと、決断力を備え持つことが鍵だと学びました。
セージの工場案内をしてくださった営業部マネージャーの福本慎さん

私は今回の工場見学で衰退が激しい地場産業を守るためには、人と人とのつながりが大事だと感じました。セージは、若手デザイナーであったAMONGを2014年から関わり、今となっては6年の付き合いになります。「一期一会」。まさに一生に一度の機会を大切にすることで、双方にとってかけがえのない繋がりとなったそうです。この?がりのおかげで、私たちも横浜捺染のものづくりの現場を見学することができ、その素晴らしさを実際に見て感じることが出来ました。機械化、効率化や高度化が進む中で地域の産業やその魅力は人の目や思いで伝わり、継承されていくと感じ、私たちも多くの方々に、地域の魅力を言葉で伝えて行かなければならないと改めて感じました。