“その土地らしさ”の魅力を辿る、茨城県央を味わう食の旅に行ってきました。〈 土の恵み編 〉

私たちD&DEPARTMENTは、長くつづいていることやものの価値を見出し、新しい見方でその価値を伝え、未来につなげる活動を行なっています。今回は、いばらき県央地域観光協議会からご依頼いただき、定食開発や生産者を訪ねるツアーを開催し、「食」をテーマに茨城県央の魅力を発信するとともに、茨城県央らしさについて考えました。

d47食堂の料理人が「茨城県央定食」を開発するために巡った旅を追体験する、1日限りの日帰りスペシャルツアーを経て、私たちが体感した茨城県央らしさを、旅の記録とともにご紹介します。

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地魚を堪能し向かったのは、ひたちなか市から車で約30分、水戸市にある「だるま食品」です。原料の大豆の約9割に茨城県産大豆を使用し、一般的なパック入り納豆のほか、松の木を使った経木納豆、藁苞(わらつと)で包んだわら納豆などを生産しています。実際にパック入り納豆とわら納豆を食べ比べ、代表の高野さんに水戸市で納豆が名産品になった背景や、納豆の今についてお話を伺いました。

自然の厳しさがもたらした、水戸の名産品
小粒納豆の歴史を遡ると、茨城に辿り着きます。昔から、県内を流れる一級河川の那珂川が流れる地域は水害が頻発しており、台風が来る前に収穫できる早生(わせ)品種の小粒大豆が多く生産されていました。全国的には大粒の大豆が使われていた明治時代、県内では一般的だった小粒納豆が、東京から仙台までを結ぶ常盤線の開通によって、水戸駅のホームで販売されるようになり、その美味しさが評判となって「水戸納豆」として広く知られるようになったそうです。

現在でも、伝統製法でつくる藁苞納豆は盛んに生産されていますが、年々、この藁苞の入手が難しくなっているそうです。藁苞には米の収穫時に刈り取った稲をおだがけし、2~3週間ゆっくりと天日で乾燥させた稲わらが使われてきましたが、乾燥機による米の乾燥が主流になったことで稲わらが不足し、藁苞をつくる加工業者も減少。福祉施設と協力し稲わらの新しい生産・加工体制をつくるなど、水戸市と農家が力を合わせて、食文化の継承に取り組んでいます。

需要と供給の変化が地域の食文化に与える影響を、身近な食材である納豆から学び、これからの未来に何を継いでいきたいかを考えた時間となりました。わら納豆は、パックの納豆では感じられないほどよい歯ごたえと、納豆の風味を引き立てる香ばしいわらの香りが特徴で、d47食堂で「茨城県央定食」を召し上がったみなさんからも大変好評いただきました。水戸市を訪ねた際は、ぜひ直売所に立ち寄って、いろいろな納豆を食べ比べてみてください。
>> だるま食品|茨城県水戸市柳町1-7-8

水戸市から北上し、東海村にある須崎農園を訪ねました。須崎さんは有機栽培で育てた旬の野菜を8~10種詰め合わせ、市場などを介さず直送や宅配で利用者に届けています。暖冬の影響で、例年よりたくさんの作物が収穫の時期を迎える圃場では、ブロッコリーや白菜、春菊やかつお菜など、アブラナ科を中心とした旬の野菜を見ることができました。

豊かさの背景にある、土との関わり
須崎さんの圃場は、さつまいも畑が広がる久慈川の近くにあります。近隣にもいくつか圃場を持ち、土壌や風土の特性を見極めながら、年間約40品目を作付けし、常に10種前後の旬の野菜が収穫できるよう少量多品種を品種選びや土壌づくりからこだわった有機農法で育てています。寒さが一段と厳しくなるこの時期は、寒さに耐えるよう糖分を蓄え甘みが増すブロッコリーや根菜類が旬ということで、実際に購入できる直売会も開催していただきました。

須崎さんが少量多品種の栽培を選んだのは、台風や自然災害、虫害などのリスクを分散する目的もあります。食材自体は他の地域でも生産されるものが多いですが、その土地の自然がもたらす厳しさと恩恵、品種や土壌、生産者によって生まれる微細な違いを大切にする姿勢が、この土地ならではの味わいを生み出し、また、それらを一番美味しい状態で食卓に届ける活動によって、茨城県央の食の豊かさを伝えているように感じました。
>> 須崎農園|茨城県那珂郡東海村石神外宿2343 オンラインショップで旬野菜のお試しセットが購入できます。

続いては、須崎農園から車で15分ほど、東海村より内陸にある那珂市のほしいも生産者「芋助」を訪ねました。ほしいも生産量日本一を誇る茨城県では、その大部分が、ひたちなか市、東海村、那珂市で生産されています。代表の助川さんにお話を伺いながら、加工現場を見学、百年以上に渡りこの地域で愛されてきた郷土食の魅力を学びました。

“らしさ”を伝える、郷土食
北風が吹き、気温の下がるこの時期は、ちょうどほしいもづくりの最盛期。「美味しいほしいもの特徴は、透明感と黄金色」と教えていただき、干し場にずらっと並んだできたてのほしいもの中から、これだ!と思う一つをそれぞれ選び、いただきました。視察の際、その美味しさにほしいもの概念を覆された「丸干し」は、蒸かしたさつまいもを丸ごと干し、「平干し」の約2~3倍の期間をかけて乾燥させ、独特の柔らかさと濃厚な甘みを引き出します。

近年、ほしいもの品種が多様化する中、芋助ではさまざまな品種の試行錯誤を経て、一番美味しいと感じた「紅はるか」にこだわったほしいもづくりに取り組んでいます。昔ながらの品種「玉豊」に比べ甘みが強く、蒸かした状態でも美しい黄金色が特徴で、丸干し、平干しに加え、熟成保存の過程でほしいもの表面に干し柿のような白い粉を吹かせる「粉吹き」も生産し、同じ品種でも、加工方法によってさまざまな味わいを楽しむことができるほしいもの魅力を伝えています。

蒸かしたさつまいもの皮むきや下処理、スライスなど、ひとつひとつ手作業で仕上げられるほしいもづくりの過程を、生産者のみなさんの手ほどきのもと体験させていただきました。

4月から10月にかけて丁寧に育て上げられたさつまいもは、10月から11月に収穫され、貯蔵庫で寝かせ甘さを引き出した後、じっくりと蒸かし、皮をむき、スライスの行程を経て、天日干しされます。原料のさつまいもの美味しさを極限まで引き出すシンプルな加工法ゆえに、その土地特有の自然の力と、人間の技、惜しみない手間によって、味わいの異なる個性豊かなほしいもができあがります。素朴な見た目からは想像もできない奥深さを、芋助のみなさんから教えていただきました。
>> 芋助|茨城県那珂市額田東郷620

農閑期でもその土地の気候、土壌を活かそうと工夫を重ねた先人の知恵。本当に美味しいものを作るために、自然の厳しさを受け入れ、それらがもたらす恩恵に目を向け活かそうと繰り返される試行錯誤。茨城県央の生産者のみなさんから、その土地らしさを伝える真摯な姿勢を学びました。〈 つくり手編 〉へつづく。