千年つづく農業を目指す SHO farm

私たちが普段たべている野菜は、根を通じて土から養分を吸収しています。つまり、野菜の形をした土を身体に取り込んでいるわけですが、土のことって、ほとんど知りません。

土のことを学ぶため、自分たちの畑に合った土をつくり、無農薬・無化学肥料で野菜を栽培している、神奈川県横須賀市にあるSHO farmに伺いました。

SHO farmを営むのは、仲野翔さんと晶子さんご夫婦です。

翔さんは高校に入る前、三重県の祖母の家へ遊びに行き、腰の曲がった祖母が懸命に大根を抜く姿を見て、若い人が農業をやらなければいけない、と決意。大学時代から国内外で畑を耕し実践を積む一方で経営的な視点も必要だと感じ、大学卒業後は農業融資の職に就きます。

晶子さんは、大学院まで土壌学を学び、教師を経験。その後、二人とも農家へ転身しました。

ご自宅に伺うと、晶子さんにまず聞かれました。

「月に土はあると思いますか?」

・・・。ガガーリンが月面に着陸した映像で、砂埃が舞っていた気がする・・・。

少し難しい話になりますが、お付き合いくださいね。

土壌学の観点では、あれを土とは呼ばないのだそうです。土の定義は、岩石の風化物に植物の作用が加わったもの。土があるのは、現在確認されている限り、地球のみです。

日本の土壌は、山地に広がる「褐色森林土」と火山灰由来の「黒ボク土」が大半を占め、畑の約47%は後者の「黒ボク土」だといいます。黒ボク土では、作物がリン酸を十分に得られず育ちにくいという問題があり、国を挙げて、全国各地で土壌改良の努力が続けられてきました。

土壌に足りない養分を補うために化学肥料をまく農家も多いなか、晶子さんは「生物の力を使いたい」と言います。

そのきっかけは「菌根菌」との出会いでした。

「農業に興味があって土壌を研究していたけど『土と植物』しか見てなかったんですよね。でも、その先があって。菌根菌といって、植物が菌をペットのように飼うことがあるんです。自分だけでは吸収できない養分を、その菌からもらっている。植物だけを見ていたらいけないんだと、衝撃を受けました。『土と植物と菌』なんですね。」

リンを含む肥料をまいた土壌では、根が懸命に養分を吸収する必要がないため、菌根菌がいないのだそうです。

「植物にとってはスパルタかもしれないですけどね。きちんと微生物が繁栄するような環境をつくってあげて、しっかり根も張り、菌根菌がつくようになれば、味も変わってきます。」

苗用につくっている土を見せてもらうと、糸を引いていました。

SHO farmでは、ソルゴーや麦などの植物を畑に植えてそのまますき込む「緑肥」を用いたり、米ぬかや木のチップでつくる「ボカシ」といった有機肥料を用いて、土のなかの微生物に働きかけています。

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ボカシは放っておくと70℃にも達します。有用な微生物が繁殖できる50℃以下を保つため、切り返せば湯気が立つほど。活発すぎる微生物の活動は作物の生育を妨げる必要があるため、1年ほど寝かせます。

畑に撒くのは、有機物がすべて分解され、跡形も無くなってから。

化学肥料をまくことも、効率的に作物を育てるための手段として必要な場面もあるかもしれませんが、その資源が枯渇する可能性もある。農業という営みが千年先もつづいていくためには、生物の力を上手に使う必要があると、晶子さんは話します。

SHO farmのある神奈川県横須賀市では、元々水田が多かったため粘土質で水はけが悪く、植物の根が窒息してしまうこともあったそうで、別のところから土を運び入れる「客土」をして、畑をつくってきたという背景があります。

「土地に合わない作物をつくろうと無理をさせると、農薬や化学肥料を使わざるを得なくなるんですよね。でも、この土だからこそできることもある。そうやって土地ごとに特産品も生まれてきたし、そもそも、みんなが一緒だったらつまらないですから。人間の都合だけじゃダメですね。土や植物の目線もある。」

ベストな土壌ではなくとも、翔さんの地元横須賀で農業をしようと決めた以上、この土地で出来ることを大切に試行錯誤を続けていています。

根菜は保存が効くため年中楽しめる印象がありますが、季節によって味わいは変化します。2月は、寒さから身を守ろうと根菜の甘みが増すため、おいしい時期だそう。

「根菜でいうと、日本は圧倒的に大根が多いですね。」

SHO farmにも、青首大根だけでなく、地元の伝統野菜である三浦大根、京野菜の聖護院大根、そして収穫が大変で近年は生産者も減っている練馬大根など、様々な品種がありました。

大根は、栽培されてきた歴史が長いことや、土質によって栽培できるものが変わるだけでなく、春になると黄色い花が咲くアブラナ科のため花粉が飛びやすく交雑しやすいため、様々な品種が生まれてきたのではないかといいます。たしかに、長野の「ねずみ大根」や鹿児島の「桜島大根」など、日本各地には様々な「地大根」がありますね。

畑にお伺いした日はあいにくの雨でしたが、廃材を使って建てたという小屋に入れていただいて、薪ストーブを焚いてくれました。

タネを蒔けば植物は育つ。それが自然の摂理ですが、農業を営むということは、微生物や虫、植物や共生する菌、周囲の自然環境から成る生態系のなかに、人間が入り込むということでもあります。土で繋がる他の生物にも耳を傾け、お互いに健やかでいられるバランスを見つけていく。そうした営みの結果として育つ野菜は、品種は産地ではくくり切れない、農家や土ごとの味わいがありそうです。

dたべる研究所では、SHO farmから届いた根菜などをふんだんに使ったサラダをご用意しています。のびのびと育った根菜は、見た目からも元気が伝わります。

SHO farmでは、できるだけ廃棄物を出さない「ゼロウェイスト」を実践していて、プラスチック資材をできるだけ使わず、マルシェでも量り売りを基本としています。野菜ボックスの配送や、畑を訪問できるオープンデイなどのイベントも実施しています。土にこだわる野菜づくりに興味のある方は、チェックしてみてくださいね。

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