レポート(3)スペシャルディナー

11月23日(土)dたべる研究所で「浄法寺漆のふるさと『二戸』を味わう スペシャルディナー」を開催しました。

2018年に『d design travel IWATE』を発行して以来、岩手の生産者の方々とご縁が続き、2019年7月には、貴重な国産漆の産地として知られる二戸を巡る「d design travel NINOHEスペシャルツアー」を実施。漆器販売やワークショップでかねてより交流のあった滴生舎を中心に、二戸と生産者の方々とご縁を深めてきましたが、今回は二戸の「食」に着目しました。

10月下旬、岩手のフレンチレストラン「ロレオール田野畑」の伊藤勝康シェフと二戸を訪問。生産者の方々と交流しながら、地域の食文化や作り継がれてきた食材を掘り起こし、料理を考案してくださいました。

11/22(金)

仕込みは前日から始まります。

まず取り掛かったのは、荒谷果樹園のりんご「紅玉」を使ったタルトタタン。小麦粉とバターで作ったベースの生地の上に酸味を残したりんごのコンポートを並べ、南部鉄器のままオーブンへ。

厨房に甘い香りが広がります。粗熱を取ってから、冷蔵庫でひと晩寝かせるのだそうです。

11/23(土)

翌朝のタルトタタンは、全体がしっとりと馴染んだ状態に。あまりの美しさに見とれてしまいます。

二戸の旬の野菜に、ひとつひとつ丁寧に火を入れていきます。

メニューリストと一緒にテーブルの上に置かれた名札には、伊藤シェフからのメッセージが隠されていたのですが、気づいた方もいらっしゃったでしょうか。

16:30 現役職人が語る「浄法寺漆」

まずは、本日お使いになる浄法寺の漆器について、滴生舎より塗師の小田島勇さん、三角裕美さん、田村良子さん、そして漆掻きから漆塗りまで行う鈴木健司さんにお話いただきました。

貴重な国産漆のうち70%を占めるのが浄法寺で採集された漆ですが、近年は山の手入れをしなくなった影響もあり、二戸市で漆の木が減少傾向にあるそうです。市としても保全と植林活動に力を入れていますが、漆の木の育成には10~20年かかるため、職人の方々は掻く量を制限せざるを得ない状況にあるといいます。

ひと筋縄ではいかない現実の一方で、高齢化による後継者不足が懸念されていた漆の世界に飛び込む若者が増えているという吉報も。今回は滴生舎からも2名の女性塗師にお越しいただきました。

トークが盛り上がるなか、伊藤シェフは料理を進めていきます。

厨房から良い香りが立ち込めてお腹が空いてしまわないよう、テーブルには、二戸のトウモロコシを使ったポップコーンとゴボウのフリットをご用意しました。

17:00 ビュッフェ台に料理が並ぶ

トークの終盤には、伊藤シェフが二戸で採集したツルウメモドキが飾られたビュッフェ台に、徐々に料理が並べられていきます。大皿として、滴生舎に眠っていた「こねばち」などを使わせてもらいました。

「秋から冬への移ろいを感じていただくような料理となります。ちょっと枯れ感じです。お楽しみください」と、伊藤シェフのごあいさつがあり、食事会が始まりました。

白菜のロースト

「高徳」を使ったサラダ

「佐助豚」と落花生のテリーヌ

そば粉「にじゆたか」のガレット

山あいの地域で米の収量が見込めなかった二戸では雑穀の生産が盛んで、雑穀料理も多くあります。ただ、収穫に手間がかかることや需要の低下もあり、自家用に栽培する方を除いて、雑穀生産者がほとんどいなくなってしまったといいます。

圃場を見学させてもらった上野剛司さんは「雑穀は二戸の大切な食文化です。たしかに作業は大変ですけど、これはもう意地ですよ」と笑いながら、たくましく話してくださいました。

伊藤シェフも「栄養価も高くて美味しい雑穀こそ、日本のスーパーフードだ」と語り、いなきび、もちあわ、えごま、そばなど、今回は様々な雑穀料理で楽しませてくれました。

どの料理からも二戸食材の強さが伝わります。調理中の伊藤シェフを見ていると、江戸時代から塩づくりの盛んだった岩手県野田村の塩以外に、調味料の種類も量もあまり使わないのです。「素材そのものの味わいをきちんと組み合わせられたら、余計なものはいらない」という伊藤シェフのモットーを、目の当たりにさせていただきました。

「菜々鶏」のロースト 麹南蛮ソース

「短角牛」のサーロインのロースト

「いなきび」と「もちあわ」のリゾット

「熟レ鶏」と根菜のスープ

18:30 伊藤シェフが語る「岩手と二戸の食」

食事がひと段落したところで、デザートとして荒谷果樹園の「紅玉」を使ったタルトタタンを、二戸のそば茶と共にご用意して、伊藤シェフにご登場いただきました。

「紅玉」のタルトタタン

千葉のご出身ですが、山の食材の魅力と釣りに惹かれて岩手へ移住した伊藤シェフ。これまでの岩手での活動や、二戸で生産者の方々と交流して感じた「食」の魅力を、現地の写真を見せながらお話しくださいました。

その途中、尾山台の洋菓子店「オーボンビュータン」の河田勝彦シェフがお見えになり、大変恐縮ながら、急遽ご登壇いただくことに。河田シェフは、被災地で炊き出しを続けていた伊藤シェフの応援に来てくださったのだそうです。

当時、物資の不足していた被災地にたくさんの食材を持ち込み、被災者はもちろん、朝晩関係なく炊き出しを行うスタッフのためにも、洋菓子や料理を振舞ってくれた河田シェフの男気と優しさに、伊藤シェフは強く心打たれたといいます。お二人の久々の再会に、お客様だけでなくスタッフも、じんと来てしまいました。

伊藤シェフのお人柄が引き寄せた奇跡の対談に同席できて、大変ありがたかったです。

こうして会はお開きに。伊藤シェフの料理はもちろん、美しい漆器の数々や、お客様同士の交流も楽しんで頂けたようで何よりでした。これまで積み重ねてきた、岩手や二戸の生産者の方々との交流は、この先もつづきます。

d47 design travel storeでは、12月27日(金)~1月31日(金)の期間「d47特集 岩手県『滴生舎』の漆器」を開催。滴生舎の汁椀、ぐい呑み、飯椀に弁当箱が加わったほか、浄法寺漆の復興に尽力された岩舘隆さんや若手作家の器が並びます。よろしければ、ぜひ足をお運びください。

▼関連企画|d47特集 岩手県『滴生舎』の漆器(場所:d47 design travel store)