浄法寺漆のふるさと「二戸」を巡る旅に行ってきました。〈 後編 〉

7月13日(土)・14日(日)の2日間、浄法寺漆のふるさと、岩手県二戸市を巡る旅に行ってきました。なぜ「ふるさと」かと言いますと、岩手県二戸市は国産漆の一大産地。漆の自給率がわずか3%という日本で、その約70%を占める全量が二戸地域で採集される浄法寺漆なのです。日本の漆文化を守るため、技術の継承とつくり手の育成、継続的に生産できる環境づくり、漆の魅力を多くの方に知ってもらうための普及活動に、地域が一丸となって取り組んでいます。今回のツアーでは、漆にまつわる歴史を学び、実際に漆掻きや漆塗りの技術を体験、その土地の人々との交流を通じて、二戸に根付く日本の漆を守り継ぐ文化を体感してきました。

〈 後編 〉では、2日目の様子をご紹介します。

一夜明け、とことん漆づくしの2日目がスタートです!二日酔いもなく、全員揃って朝食をいただき、おぼない旅館の若女将 大建ももこさんに見送られ出発!朝8時30分から営業されている藤原せんべい店へ向かいます。

昔ながらの製法で、今でも手ごねで手延べ、炭火で一枚一枚手焼きされている、焼き立ての南部せんべいをいただきながら、ご主人にお店の成り立ちや美味しい食べ方を伺いました。

道中では、南部美人の原料に使われている「ぎんおとめ」の田んぼも見ることができ、昨夜いただいたお酒の美味しさが蘇ります。

浄法寺歴史民俗資料館は、浄法寺漆器誕生の地として伝えられる天台寺の麓にあります。

どのようにして漆が人々の暮らしを支えてきたのか、漆の産業や活用の歴史、貴重な展示資料とともに資料調査員の中村弥生さんからお話を伺いました。塗りのイメージが一般的な漆ですが、漆の実は蝋燭に、漆液を採取した原木からは漁業用の浮子(アバギ)も作られ、全国各地の港町に出荷されていました。縄文の遺物からも漆の道具が発見されており、産地としては奈良時代からと言われているそうです。日常の器としての漆だけでなく、漆の木としての文化も同様に、長く受け継がれてきたという一面を、学ぶことができました。今回は45分ほどの見学だったのですが、45分以上の時間を確保することをおすすめします。

5月に訪ねた時はまだ葉もついていなかったうるしの森は、漆掻きでいうところの最盛期「盛辺(さかりへん)」に差しかかろうとしていました。

漆掻き師・鈴木健司さんの指導のもと、実際に使用される道具を使って、ひとりひとり漆を掻いていきます。1本の木から採取される漆の量はおよそ200cc。傷が浅すぎても、深すぎてもいけません。

じわっと滲み出る漆の様子や、掻く際に感じる繊細な感覚は、漆掻きの体験でしか味わえません。この貴重な一滴一滴が、浄法寺塗りを支えているということを、鈴木さんのお話や漆掻きの体験を通じて、みなさんしっかり受け止めていらっしゃいました。

漆掻きの実態を学んだ後は、漆塗りの体験へ。浄法寺漆を次世代へつなごうと、全行程に浄法寺漆を使った漆器をつくる「滴生舎」にて、今回はお椀の内側を浄法寺漆で仕上げる、難易度の高い塗りに挑戦していただきました。

鮮やかな手さばきで塗り、仕上げる塗師のみなさんの動きは見事の一言。製品からはなかなか知ることのできない漆の特性、美しい漆器を生み出す塗師の道具と技術など、一言一句逃さないぞ!という意気込みを感じるほど、みなさん真剣に塗師のみなさんの話に耳を傾けていました。

漆を無駄にしない、道具の扱い方にも挑戦。

研磨するために使用するロクロ台は、しっかりと器を真ん中に据えることが重要ですが、これがとても難しい。

精製する前の、生の漆も見せていただきました。浄法寺町では、漆掻き職人から直接漆を仕入れます。

漆の樹を育て、漆を掻き、木地をつくり、それに地元産の漆を塗る。うるしの森に入って掻いた貴重な漆が、塗師の丁寧な仕事によって製品になり、私たちの元へ届きます。その実態をこんなにも実感をもって体験できるのは、今回のツアーの醍醐味の一つだったように思います。

ものの魅力を考える時、もののまわりにある産業や歴史、それらを支える人々のことを知ると、表面的なデザインや機能的な使い心地だけではない、本質に迫る、長く続いている理由に気づくことができます。二戸の地で受け継がれてきた歴史を学び、漆の産業に携わる人々の思いやその技術に触れたことで、参加者のみなさんにも、浄法寺漆器に宿る美しさの理由を、以前より、より確信を持って捉えていただけたのではないかと思います。

旅の締めくくり、出張d食堂 in 二戸では、二戸の旬の食材を、地元の方々と一緒にたっぷりと堪能しました。
>> たべる部レポート|d食堂 in 二戸(3)生産者と生活者で食卓を囲む

今回のツアーでは、岩手県二戸市に対して、何の印象も持たず、漆器への興味に導かれて参加した方がほとんどでした。しかし、観光用ではないありのままの二戸を巡り、その土地で暮らす人々との交流を通じて、二戸に根付く風土や文化の豊かさ体感し、漆だけではなく二戸という土地に対しても愛着を持っていただけたように感じます。

出会い、交流、体験による学びに満ちたツアーとなったのも、普通では体験できないツアーの実現を支えてくださった二戸のみなさん、同じ価値観をもった参加者、そして二戸市役所のみなさんのおかげです。今回のツアーの経験と、参加者のみなさんからいただいた「また来たい」「旅先としておすすめしたい」という言葉を胸に、今後もこうした企画をつくっていけたらと思います。

11月には岩手県に根付くものづくりをテーマに、食と絡めた企画を開催します。D&DEPARTMENTウェブサイトでもお知らせしますが、参加を逃したくない!という方は、ぜひ【こちら】のメールニュース会員に登録してくださいね。
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