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安兵衛

  1. 入った瞬間、「間違いなく美味い」と確信する、空間と匂い。 屋形船を模した、天井の低い「舟屋造り」。カウンターの椅子は、客数に合わせて対応できる。
  2. 小石原焼などの皿に、色鮮やかに盛りつけられる絶品おでん。 それぞれに合った調理方法のおでん種。カニやエビなど、旬の食材を練り込んだ真薯や、がんもどき、椎茸、大根など、すべてが極上品。
  3. おでん1品1品、出汁1滴に、すべての技量と想いを込め、一心不乱、頑固一徹の大将。 「まず、これを飲んでみませんか? うちの味、わかりますよ」と、挨拶代わりに出される出汁。これだけで、酒が飲める。

ここにしかない、〝毅然たる博多おでん〟 西中洲の静かな路地に掛かる濃紫の暖簾を潜って、一人でも三人連れでも、「安兵衛」の檜の一枚板のカウンターに、ぜひ、座ってほしい。直径五〇センチほどの銅鍋におでんが煮え、それと黙々と向き合う大将・小笠原亮介さん。勇ましい紋付半纏の肩越しには、墨で書かれたメニュー。大将は、皿に上げたおでんを、包丁と菜箸を巧みに扱い、切り分け、そして、実に見事に盛りつける。僕は、目の前で出来上がった一皿を見て、その美しさに感動した。はんぺんを注文すると、ボソボソとした表面の、小さめの厚揚げのようで、「これ、はんぺんですか」と訊くと、何と、ホタテを細かく包丁で叩いて作るという。貝柱の食感がよく、これが絶品、まろやか。初代「安兵衛」は、一九三二年、大将の父が大連市に開店した居酒屋だった。敗戦ですべてを失い、本土に引き揚げ、一九六一年、大連時代の常連客達の助力で、現在地に移り、若冠二〇歳の青年だった現大将が店を引き継ぎ、今日まで、おでん一筋。趣ある看板には、父が書いた字「安兵衛」が彫ってある。「私は、おでんしか作れません」と大将。しかし、この味、この盛りつけ、そして大将の信念―そのすべてによって、数多くの名物が犇めく、ここ福岡に、「博多おでん」という食文化を生まれさせた。女将さんに見送られて店を後にすると、僕はラーメンの屋台等には目もくれず、宿へと戻り、おでんの味を思い返していた。(神藤秀人)

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