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「技のこわけ」産地を訪ねて①「アルベキ社」

2017年8月4日 公開

富山の様々な作り手が参加し、12㎝角の小皿でそれぞれの技を表現した「技のこわけ」プロジェクト。D&DEPARTMENT TOYAMA GALLERYでは、2017年7月6日(木)〜8月22日(日)の期間、「富山県のお土産デザイン 「越中富山 技のこわけ-素材と技を伝える新しいお土産の形-」展」にて、「技のこわけ」の展示を行っています。

展覧会に合わせて、このプロジェクトに参加している作り手を訪ねました。


今回訪れたのは、高岡の代表的な伝統産業である「彫刻塗」をいかした作品づくりを手がける「アルベキ社」。彫刻塗とは、彫刻を施した上から漆を塗る技法で、立体的で躍動感のある高岡ならではの漆器の技法です。

アルベキ社が製作した「技のこわけ」の作品「流し彫り」を最初に触れたとき、マットな質感に「あれ?」と思いました。

20170804_1アルベキ社の「技のこわけ」作品「流し彫り」

漆といえば、艶やかな表面が特徴。磨かない場合でも、独特の吸い付くような手触りが魅力の素材です。なんとなく、いつも触っている漆と質感が違う、と思い素材を確認してみると「ウレタン」と書かれていました。これだけを聞くと、「漆が好き」という方の中には、もしかしたら私と同じように「あれ?」と思われた方もいるかもしれません。

アルベキ社のある富山県高岡市は、「高岡漆器」と名前がつくほど漆器の盛んな産地。そこで、あえてウレタンを使う理由を知りたくて、アルベキ社の工場を訪ねました。


1.「彫刻塗」の技と、”彫刻塗師屋”の仕事

出迎えてくれたのは、代表の山村高明さん。山村さんは、漆の仕事を始める前は、眼鏡のバイヤーをされていたという異色の経歴の持ち主。道理で眼鏡、とても素敵です。

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まず、「彫刻塗」の基本的な技術を見せて頂きました。立体的に彫り込まれた獅子の上から、目やたてがみに陰影のついた迫力ある漆の塗装が施されています。

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「彫刻塗」は、彫刻を施す、漆を塗るといった技法の他に、和紙や布を用いたり、螺鈿を施すなど、多種多様な技が使われます。「アルベキ社」のような彫刻塗師屋(ちょうこくぬしや)と呼ばれる会社は、漆を塗ることはもちろんですが、「最終的な仕上がりをイメージして彫刻の彫り方や、使用する素材選び等々、仕上がるまでのすべての工程をマネジメントするのが仕事です」と山村さん。作業場には、様々な色、質感の「彫刻塗」のサンプルが所狭しと置かれています。これらを熟知し、目指す作品のイメージに合わせて組み合わせることが、重要な仕事です。

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2.伝統産業を、アートの分野に

「アルベキ社」では、この彫刻塗の技術を用い、企業からの依頼を受けて壁面を飾るアート作品等の製作を手がけています。

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アート分野への転換は、大きな挑戦だったのではないでしょうか。お聞きしてみると、「父からは、大反対にあった」そう。

実は山村さん、ご実家は「三佳」という1931年創業の歴史ある彫刻塗師屋で、伝統技術を活かし、お盆などの日用品から看板・サイン作りを手がけいらっしゃいます。山村さんは、ご実家での修業中、長野にある”小布施堂”の看板を手がけたときに可能性を感じ、アート分野への進出を考えたそうです。「純粋にカッコいいと感じた」と山村さん。しかし、アートの分野は、何百という営業をかけても、1件受注できるかどうか全く確証がない新しい分野。お父様の判断は、経営的な観点からNG。それならと、山村さんは独立を決意。「アルベキ社」を立ち上げたそうです。「たまたま良いタイミングが重なったので」と山村さんは話しますが、この大胆な決意は、自らの技術に自信がなければ、とてもできることではありません。

3.背景彫の魅力と、ウレタン塗装のわけ

普段は、大掛かりなアート作品を手がける山村さん。今回、「技のこわけ」で小皿という日常使いのものを手がけるのは、どんな思いからだったのでしょうか。「アートは、彫刻塗を最も広く解釈して可能性を追求できる領域。でも触れる人の間口は狭い。彫刻塗を身近な存在にする為に、日用品を作ることも大切だと考えています」と山村さん。

今回作られた「流し彫り」という作品は、彫刻塗ではよく見られる「背景彫」の技法を用いています。「背景彫は、主役の絵を浮き立たせるための脇役の技術。ですが、自分はこのデザインが好きで」と、あえて脇役を主役にしたお皿を考えついたそう。

20170804_7主役の絵を浮き立たせる「背景彫」

そして気になる塗りのこと。「あえて、ウレタンにしました」と断言。「ウレタンのマットな質感が好きなんです。そして、ウレタン=悪い素材だとも思っていません。実は、漆の代替品であるカシュー漆を開発したのは祖父なんです。国内の漆産業が廃れていく中で、漆が採れなくなっても漆塗の技術は残せるように、という思いから作られました。漆の代替品があったからこそ守られた技術も確実にあります。大切なのは、本漆かどうかではなく、産地が継承してきた技術そのもの。彫刻塗師屋の仕事は、どんな素材でも、その素材の良さを熟知して、目指すイメージにあわせて柔軟に使い分け、技をもって最適な表現を生み出すことだと思います」と山村さん。

山村さんの話を聞くことで、本漆=本物と、安易な考えにとらわれていた自分に気づき、ハッとさせられます。

脇役である「背景彫」を主役にすること、そして、あえて本漆ではなくウレタンを使うこと。このシンプルな器には、素材選びからデザインに至るまで、隅々に山村さんの彫刻塗師屋の仕事に対する誇りと、既存の価値観に対して挑戦していく姿勢が表されています。

4.子どもたちが、この仕事を選べるように

「自分たちの世代は、どこの会社でも”継げ”と言われることはほとんどなかった」と山村さんは言います。ひとつ上の世代は、伝統産業が斜陽の時代。どんなに誇りを持っていても、子どもたちに同じ苦労はさせたくない、という思いが産地にはあったそうです。「でも自分は、自分の子どもが仕事を選ぶときに”彫刻塗師屋”が選択肢のひとつになるようにしたい。かっこ良いことはもちろん、ビジネスとして成り立つこと、生活の時間持てること、彫刻塗師屋をすべて揃った仕事にしていきたい」と山村さん。

しっかりとした伝統技術の土台を持ちながら、そこにとらわれず、自在に表現を変えていく。”彫刻塗師屋の仕事とは何か”ということを明確に言葉にし、既存の考えを軽々と超えて新しいものづくりに挑戦する山村さんは、どこかロックミュージシャンのようだ、私は感じます。それは、これまで遠い存在だった彫刻塗が、ぐっと身近でカッコいいと思えるようになったこと、そして山村さんが次にどんな作品を作るのだろうと楽しみになったことからも、きっと間違いありません。

D&DEPARTMENT TOYAMA  進藤仁美


■関連イベント
d TALK 13 桐山登士樹 × ナガオカケンメイ「技のこわけ開発ストーリー」
日 時:2017年8月5日(土) 19:30〜21:30(開場 19:15)
参加費:2,000円 ※1ドリンク、軽食付
定 員:50名
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