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食の語り部2017レポート⑦ 本当においしい出汁の話。日本のかつお節文化を守る

2017年6月6日 公開

第15回 良い食品博覧会にてd47食堂内で開催された「食の語り部」講座のレポート。

語り部 第7回目は、東京にてかつお節の販売を行われている「有限会社 タイコウ」の代表取締役 稲葉泰三さんに「本当においしい出汁の話。日本のかつお節文化を守る」をテーマに、お話しいただきました。d47食堂ではオープン当初より、お味噌汁の出汁をはじめ、オリジナルにブレンドされたタイコウさんのかつお節を使っています。

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まず初めに行ったのは、かつお節でとった出汁の飲み比べ。一つはタイコウさんの商品「だしこころ」を、もう一つは一般的に売られているものを使って、それぞれ出汁をとっています。

口に含んだ瞬間、その違いはすぐに判りました。どちらにも旨味を感じることはできましたが、「だしこころ」の出汁ではそれがとても澄んだものであるのに対して、もう一方には、酸っぱさや雑味が混じっています。稲葉さんは言います。

「出汁に苦味や雑味、酸っぱさが混じっているのは、かつお節をつくる過程で、手抜きがあるからです。でも、これで小売価格が同じだっていうんだから、笑っちゃうよね」

私はスーパーなどで買い物をする際「この値段なら美味しいだろう」と、値段を基準に考えてしまうのですが、今回の飲み比べで、値段だけで品質は見極められないこと、どれが美味しい商品なのかは自分の舌で確認しなければならないことを、痛感しました。

それでは、美味しい出汁を取ることができるかつお節は、どのようにして作られているのでしょうか。

稲葉さんは「かつお節の味は、釣り方で八割決まる」と言います。

かつおの漁法は一般的に、巻き網と一本釣りの二種類に分けられます。現在では、効率よく大量に取ることができる巻き網漁が主流であり、一本釣りで釣られたかつおの数は非常に少なくなっています。また、価格の面でも巻き網漁で獲られたかつおの方が安く仕入れることができるのですが、それでも、稲葉さんは一本釣りでつられたかつおにこだわります。

その理由は、乳酸。

「巻き網にかかったかつおは、網の中で苦しみ、暴れます。その時に、乳酸が出るんです。この乳酸は、かつお節で出汁をとったときに、酸っぱさの原因となります」

しかし「一本釣りにこだわるかつお節屋は、現在ではとても少ない」と稲葉さんは言います。
「他のかつお節屋は普通“一本釣りのかつおもあります”と言うけれど、うちでは“一本釣りのかつおしかありません”だからね」

さて、そうして仕入れた一本釣りのかつおは、稲葉さんが全幅の信頼を置く職人、宮下さんのもとで、主に以下のような工程を経てかつお節へと加工されます。

①生切り:かつおの身を捌いていく一連の作業の事
②煮熟:捌いたかつおを、60~70℃のお湯で煮ること
③焙乾:火を焚いて、燻すようにして乾燥させること
④カビ付け:室(むろ)と呼ばれる部屋で温度や湿度を調節し、かつお節にカビをつけること
⑤日干:天日に干し、かつお節をさらに乾燥させること

稲葉さんは、この中で最も重要なのが②の煮熟だといいます。

「(かつお節づくりは)煮熟が全てです。この作業でイノシン酸が凝固され、旨味が残ります。この作業をしくじると、旨味が全て抜けてしまうので、あとで何をやっても駄目なんです」

約半年の時間をかけて加工が終わったかつお節は、タイコウへ送られてきます。

そこからは「目利き」である稲葉さんの出番。送られてきたかつお節を一本一本手に取り、その仕上がりを確認していきます。「かつお節を見る際に、どこを見ていますか?」という質問に対して、稲葉さんは「全体」と、シンプルに答えられました。

「よく、叩いた時の音とか、折ったときの断面の艶とかで、かつお節の良し悪しを判断する人がいるでしょう。でも、目利きなら見てわからなきゃダメ。叩いたり、折ったりして分かるようじゃ遅すぎるんです。そもそも、折ったりしたら、商品にならないじゃないですか」

そう語る一方で、次のようにも語っていました。

「全てのかつお節を5~6回は見て、姿売り(かつお節を削り節などに加工せず、そのままの姿で売ること)にするか、削り節にするかを選別していきます。俺の目も節穴ですからね」

目利きとしての自負を持つ一方で、常に謙虚さは忘れないその姿勢に、私は稲葉さんの“鰹節に対する誠実さ”を感じました。

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かつお節について学んだあとは、稲葉さんが持参された削り器とかつお節を用いて、参加者にかつお節を削ってもらいました。普段、あまり削る機会のないかつお節。稲葉さんが参加者の皆さんへ、丁寧に削り方のコツを教えていきます。

削りたてのかつお節は、そのまま皆さんに食べていただきました。すると「普段食べているかつお節と全然違う!」という声が。稲葉さん曰く「かつお節は、削ってから30分で味が全然変わってしまう」とのこと。

「うちのかつお節は、1リットルの水に対しては8グラム、二リットルの水に対しては12~13グラムで十分。12~13グラムなら、お湯が沸く間に削ることができますよ

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また、姿売りのかつお節と削り節を買う基準として、目的に合ったものを選ぶことが重要だ、とも仰っていました。

「料理人は味を求めるでしょう。だから、扱いやすさは無関係なんです。でも、素人には扱いやすさが大事じゃないですか。だからうちでは、姿売りのかつお節だけではなく、削り節も扱っているんです。物事は一長一短ですから、味をもとめるか、扱いやすさをもとめるかで、姿売りと削り節のどちらを選ぶのか、決めていけばいいと思います」

さらに稲葉さんは、出汁をとることの重要性について、次のように語っていました。
「俺の理想は、皆が毎日出汁をとること。煮干しでも昆布でもいい。とにかく毎日出汁を取りましょう。出汁をとることが、生活の始まりなんです。日本料理は出汁が無いと始まらない。日本人にとっては一番基本だと思う。だから、だしを取るところから初めて、それができたら、自分で(かつお節を)削ることをはじめればいい」

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最後に「今後の社会で、私たちにできることは?」という質問に対して、稲葉さんは「値段だけで評価するのはやめてほしい」と答えられました。

「商売をやるにあたっては、やはりお客様の意向が一番重要。お客様が求めるものを用意するのが、商売だから。でも一番困るのが、商品を見ずに、ただ「値段」だけで評価をする客。値段だけを見て「この値段は高い」っていうのは「あんたの給料は高い」って言っているのと同じで、実は商品に対する評価ではないんですね」

「我々目利きは、現地に行って、その商品の質を見極めて仕入れ、商売している。それなのに、商品を見ずに、ただ「値段」だけで評価をするのはやめてほしい」

そして稲葉さんは、次のような言葉で締めくくられました。

「買い物は投票です。商品に価値を見出したら、そこに正しい評価をして、正しい価格で買ってあげること。あなたたち一人一人が、日本の生産の現場を決めているんだと思ってください」

かつお漁の現状から、かつお節の加工法、削り方、そして、我々の消費のありかたまで。

幅広い内容に満ちた稲葉さんの話を聞いて、私は日々の生活において、何が大切なのか、何を今後の世代に残すべきであり、何に投票するべきなのか、ということについて、もう一度考えなおしてみよう、と思いました。

 

(d47食堂 中倉 大輔)


食の語り部2017レポート
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